IT運用の担当者が少ない企業では、夜間・休日の監視や障害対応、クラウド環境の構築・運用が一部のメンバーに集中し、運用負荷の高さが課題になりがちです。運用負荷軽減の手段のひとつが、ITシステムの運用・監視・保守を専門事業者に委託するMSPサービスです。
本記事では、MSPサービスを中心としたITアウトソーシングの導入事例を6つ紹介します。導入前の課題だけでなく、どこまでを外部に委託し、どのように運用負荷が軽減されたのかまで整理しているので、自社の委託範囲を検討する際の参考にしてください。
飲食店向けの予約管理システムや業務支援ソリューションを提供するイデア・レコードは、サービス導入店舗が約6,000店に達したことによるシステム負荷の高まり、安定稼働の維持やリソース不足などの課題を抱えていました。
開発は得意な一方でインフラに特化した体制や経験が浅く、サーバーメンテナンスも過去の経験に頼って進めている状況でした。自社内だけでは客観的評価や潜在リスクへの対応も困難であったため、安定したサービス提供とリスク低減を目指しMSPの活用を決めました。
導入後は、24時間365日の監視・運用体制が整い、アラート発生時の迅速な対応が可能になりました。
ベンダーフリーで設計・構築・運用支援まで幅広く相談できるようになり、新規ビジネスに合わせたインフラ構築のリードタイムも短縮。WAFなどのセキュリティ対策を見直す中で、社内エンジニアのセキュリティへの理解も深まり、インフラ適正化と運用の体系化が実現しています。
関西電力グループの情報通信企業であるオプテージは、自治体(奈良県宇陀市)の行政システムをガバメントクラウドへ移行する案件で、AWS環境の構築・運用や監視体制の整備に課題を抱えていました。
自治体からは回線だけでなくクラウド環境の構築・運用まで含めたワンストップ提供が求められる一方、パブリッククラウドの知見が不足。入札時点で精度の高い設計を示す必要もあり、自社だけでは情報収集や設計・調査の工数に大きな負担がかかる状況でした。
テコラスによる支援で、問題の切り分けに要する時間を約60%短縮しました。担当者は、自社単独で対応した場合と比べて運用工数を40〜50%削減できたと実感しています。
2025年10月には本番運用へ支障なく移行。クラウド側の作業を任せたことで、オプテージは回線ベンダーとしてのコア業務であるネットワーク通信設定に集中できるようになりました。
産業用ロボットや自動認識機器(QRコードなど)を手がけるデンソーウェーブでは、クラウドで提供する「Qプラットフォーム」の環境が手作業で運用されており、構成が複雑化していました。
専任担当者が都度対応する必要があり、グループとして求められる品質・運用管理ルールも守らなければならないため、リリースは年3〜4回が限度でした。食堂向け自動精算システム「DECSSY」のクラウド化でも、テナント分離やセキュリティの検討が進まず、クラウドに詳しい技術者の不足とエンジニアの負担が課題となっていました。
CNAPの導入により構成管理が標準化され、切り戻しも容易になりました。Qプラットフォームのリリース回数は年3〜4回から年10回へと大幅に向上しています。
DECSSYのクラウド版では、顧客ごとのテナント分離を実現し、デプロイにかかる作業が0.5人月から1〜2時間に短縮。組み込み系のエンジニアも得意分野に集中しながら、短期間でアプリ開発を進められる体制が整っています。今後は他製品や海外リージョンへの展開も検討されています。
ゲーム開発やCG制作事業を展開するプレミアムエージェンシー(現・フレイムハーツ)は、中国向けのサーバー構築や運用に関するノウハウ、現地パートナーとの連携方法が不明確で「何から取り組むべきか」がわからない状況でした。
国内の取引先の多くからは中国でのサービス提供は難しいと回答され、技術面・戦略面ともに自社で解決できなかったため、クララの中国向けクラウド構築・運用支援サービスを採用しました。
クララの支援により、中国現地にクラウドサーバーを構築し、ネットワーク遅延や障害対応を含めた運用体制を整えました。
単なるインフラ構築だけでなく、戦略立案や現地パートナーとの連携支援まで一貫して関与することで、インフラ運用をワンストップで任せられるようになり、運用負担の軽減やプロジェクト全体のスムーズな進行につながっています。
情報通信システムの構築や運用保守など、総合的なITソリューションを提供する富士テレコムは、顧客である飲食業者の店舗管理システムと栄養管理システムをAWSへ移行するプロジェクトを進めていました。
しかし、自社内にクラウドインフラ(AWS)の知識・ノウハウが不足していたため、移行の支援だけでなく、将来の内製化まで見据えた支援が必要でした。そこで、インフラとアプリケーションの両面に技術力があり、伴走支援が可能なパートナーとしてBeeXを選定しました。
なお、アプリケーション開発は富士テレコムが主体となって進めており、インフラ部分を中心に外部の知見を取り入れた形です。
店舗管理システムではオートスケーリングを採用し、採用しなかった場合と比べて約50%のコスト削減を実現しました。
さらにCI/CDの導入でソースコードの変更から本番環境への展開までが自動化され、担当者は運用負荷が軽減されたと評価しています。2つのシステムはいずれも安定稼働しており、プロジェクトを通じて身についたAWSの知識は、今後の内製化や他プロジェクトへの活用基盤となっています。
BPOサービスやデジタルマーケティング事業をグローバルに展開するトランスコスモスは、アパレルメーカーから依頼を受けたECサイトの開発案件で、AWS上の基盤構築・運用・監視を自社リソースだけで対応する余力が不足していました。
実店舗とのポイント共有や基幹システムとの連携など独自の要件も多く、社内のインフラチームは別案件に専念していたため、基盤設計から運用・監視まで一貫して任せられる専門パートナーの支援が必要となり、ブロードバンドタワーを選定しました。
非機能要件定義からAWS基盤の設計・構築、監視運用までを一貫して委託できる体制が整い、2023年9月に新しいインフラ基盤とECサイトが完成しました。
エラー発生時は監視サービスが速やかに検知してエンジニアへ連絡する体制が整い、担当者によるとリリースから現在までトラブルは発生していないとのことです。インフラを任せたことで、トランスコスモスはECサイトとアプリの構築に専念できました。
これらの事例を見ると、運用負荷の軽減につながった取り組みには共通点があります。自社で委託を検討する際は、次のポイントを参考にしてください。
イデア・レコードやナビプラス、トランスコスモスの事例では、監視やアラート発生時の対応を外部に任せたことで、社内エンジニアが障害対応に追われる状況から解放されています。
負担が集中しやすい夜間・休日を含めた監視や障害対応を外部に任せることで、社内は開発やサービス改善に時間を使いやすくなります。
イデア・レコードは自社の風土に合わせて運用の業務フローを体系化し、ナビプラスは既存の社内ドキュメントをもとに対応手順を整備して委託を始めています。
特定の担当者しか対応できない状態は、退職や休暇のたびに運用が止まるリスクにつながります。委託をきっかけに手順を明文化しておくと、担当者が変わっても同じ品質で対応しやすくなります。
イデア・レコードの事例では、委託先のエンジニア支援を通じてサーバー構成の最適化やセキュリティ対策の見直しが進みました。オプテージの事例では、一次調査と原因の切り分けを任せたことで、切り分け時間を約60%短縮しています。また、デンソーウェーブや富士テレコムの事例では、構成管理の標準化やCI/CDの導入により、デプロイなどの手作業が大きく減りました。
日々の監視・障害対応を任せられる委託先に、運用の改善や最適化まで相談できると、運用負荷をさらに下げやすくなります。
イデア・レコードはインフラの要件定義・ネットワーク設計から監視・運用までを同じ委託先に任せており、トランスコスモスも非機能要件定義から委託先と一緒に進めています。富士テレコムも要件定義の段階から伴走支援を受けています。
運用開始後に体制を整えるのではなく、設計・構築の段階から運用まで見据えて委託先に相談することで、リリース後の手戻りやトラブルを抑えやすくなります。
運用負荷を軽減するには、まず「どの業務の負担が大きいのか」を整理し、外部に任せる範囲と自社に残す範囲を決めることが大切です。課題ごとに検討したい委託範囲と、参考になる事例をまとめました。
| 自社の課題 | 検討したい委託範囲 | 参考になる事例 |
|---|---|---|
| 夜間・休日のアラート対応が特定の担当者に集中している | 24時間365日の監視と障害対応 | イデア・レコード ナビプラス |
| サーバー台数が多く、台数単位の料金では監視費用が膨らむ | サーバー台数に左右されない料金体系での監視・障害対応 | ナビプラス |
| 障害時の原因切り分けに時間がかかる | 監視設計、障害時の一次調査・切り分け | オプテージ |
| クラウドの構築・移行やインフラ運用の知見が社内にない | 要件定義・設計・構築から運用までの一貫した支援 | イデア・レコード 富士テレコム トランスコスモス |
| 構成管理やデプロイが手作業で、リリースが遅れがち | 構成管理の標準化、運用の自動化 | デンソーウェーブ |
| 海外向けサービスのインフラ運用ノウハウがない | 現地インフラの構築・運用と連携支援 | プレミアムエージェンシー |
また、同じ課題でも、監視対象のサーバー台数、クラウドとオンプレミスの構成、求められるセキュリティ水準によって、合うMSPサービスは変わります。委託範囲の考え方は、以下の記事でも詳しく解説しています。
運用負荷を軽減したいなら
「監視対象のサーバー台数が多い」「オンプレミスとクラウドが混在している」「セキュリティ要件が厳しい」など、自社の運用体制によって比較するポイントは異なります。運用体制別に厳選したMSPサービスから、自社に合う委託先を比較してみてください。
MSPサービスは、24時間365日の監視や障害時の一次対応、クラウド環境の構築など、幅広いIT運用業務を専門事業者に任せられるサービスです。今回紹介した事例のように、夜間・休日を含む障害対応の負担軽減や、障害の切り分け時間の短縮、運用工数の削減など、委託範囲に応じてさまざまな効果が期待できます。
運用負荷を軽減するには、まず自社で負担が大きい業務を洗い出し、外部に任せる範囲を整理することが大切です。このメディアでは、自社のIT運用体制の特徴から見つけられるMSPサービスを厳選して紹介しています。ぜひ自社の運用体制に合ったMSPサービスを検討してみてください。
運用体制から選べるMSPサービスを紹介する当メディア『とまRun365』では、ITアウトソーシング(代行)するメリットやMSPサービスとの関係といった基礎知識をまとめています。併せてチェックしてください。
Q 運用負荷軽減の事例は、業種が同じ企業を参考にすべきですか?
A
業種だけでなく、IT人材の人数、監視対象の規模、クラウド・オンプレミスの構成、困っていた業務が自社と近いかを見ることが重要です。
運用体制や課題が似ている事例のほうが、委託範囲や期待できる効果をイメージしやすくなります。
Q 運用負荷が軽減できたかは、何で判断すればよいですか?
A
コスト削減額だけでなく、障害の切り分けにかかる時間、運用工数、夜間・休日に担当者が対応した回数、リリースの頻度なども確認しましょう。
導入前の数値を記録しておくと、委託後の効果を比較しやすくなります。担当者の心理的負担が軽くなったかどうかも、見落とせない判断材料です。
Q 一部の業務だけ委託しても、運用負荷は軽減できますか?
A
軽減できます。夜間・休日を含む監視や障害対応など、負担が大きい業務から切り出して委託する方法もあります。
小さく始めて、後から監視対象や対応手順を増やしていくことで、自社に残す業務とのバランスを取りながら体制を整えやすくなります。
Q 事例を参考にする前に、自社で整理しておくことはありますか?
A
現在の運用業務、担当者数、夜間・休日の対応状況、障害対応の流れ、外部へ任せたい範囲を整理しておくと比較しやすくなります。
課題が曖昧なままでは、事例の効果を自社へ当てはめにくくなります。既存の手順書や運用ルールの有無も確認しておくと、委託開始までの準備を進めやすくなります。手順書の整備から相談できるMSPサービスもあります。
※1 金融機関などで求められる、厳格なセキュリティ基準のこと。参照元:TOPPANエッジITソリューション公式HP(https://www.holdings.toppan.com/ja/news/2024/02/newsrelease240220_1.html)
※2 クラウドサービス向けの国際的なセキュリティ認証のこと。参照元:TOPPANエッジITソリューション公式HP(https://www.tsi.toppan.com/service/reason/center/index.html)